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ニホンちゃんSS
血戦! 青山の里
『ニホンちゃん』は2chで連載されている擬人化小説……のようです。

「わぁー気持ちいいねー」
 ニホンちゃんは一家揃ってお出かけしています。ニホンちゃん・ウヨ君・アサヒちゃんら3人の子供グループと、ニホンちゃんパパ・ママ・シシローおじさん・サヨックさんの大人4人グループです。
「ふん、当たり前よ。ここはチューゴ君の敷地だもの。チューゴ家と比べたらニホン家なんて……」
「だったらさっさとタイワンちゃんの身代わりにチューゴ家の養女にでも行けよ。ついでにお前の大得意な人権抗議でチベットさんを開放することも忘れずにな。あ、お前だけはチューゴと直通電話引いていたな」
「ま、まぁまぁアサヒちゃんもウヨも仲良く、仲良くね!」
 今日は紅葉狩りということもあって普段は喧々囂々侃々諤々な家庭内も……比較的穏やかでした。一応は。
 ここは町内では間島と呼ばれる郊外の野原です。チューゴ家所有の土地とはなっていましたが、実際には管理もしていなくて放置状態です。またロシアノビッチ家との境界付近でもありますが、両家の杜撰な管理もあって一体どちらの土地なのかも分からない状態でした。黙ってこっそり入っても見つかりはしないのですが、ニホンちゃん家は律儀にもチューゴ家にしっかり連絡してからピクニックをしていました。本当はロシアノビッチ家もチューゴ家もニホン家の立ち入りは禁止したいのですが、ちょっと前にニホン家との喧嘩で負けてしまってからこの付近で遊んでも良いと約束させられていたので、ニホンちゃん達の散策を許可するしかなかったのです。でもそんなことは大人の事情なので、ニホンちゃん達子供には無関係です。
 元気いっぱいの子供二人と違って、ニホンちゃんはちょっとおとなしげです。理由は簡単。
「ねぇお母さん、ちょっと摘み食いしていい?」
 実は昨晩興奮して寝付かれず、朝寝坊して朝食を食べ損なっていたのでした。他にも寝付けなかった理由には、隣の家が何やら夜中中騒がしかったこともあるのですが。
「お行儀悪いわね。でもちょっとだけなら」
「わーありがとう!」
 ニホンちゃんママが重箱を取り出しました。
「名付けて『琿春弁当』。沢山作ってきたから少しくらいは構わないわ」
「はーい、いただきまーす」
 一口サイズに分けられた海苔巻きを頬張ろうとしているニホンちゃんを、アサヒちゃんが目ざとく見付けました。
「ああっニホンちゃんだけ狡い! 差別だわ! あたしにも食べさせないと壁新聞で訴えるわよ!」
「いっぱいあるからアサヒちゃんもいいわよ」
 ニホンちゃんのママはにっこり笑ってもう一つの海苔巻きをアサヒちゃんに渡してあげました。アサヒちゃん的には単にニホンちゃんに言いがかりを付けたいだけでお腹は空いていなかったのですが、くれるんなら貰っておくわ、と受け取りました。

 しかしその時!

「ニダッ!!」
「ウェーハッハッハッ!!」
 悪寒が走る二つの濁声と共に、ニホンちゃんの手から半分食べかけの海苔巻きがかっさらわれました。後に残る強烈なキムチ臭。
「お前ら!」
 ウヨ君が反射的に正拳突きを繰り出します。微かな手応え有り。しかし不充分であることはウヨ君にも分かっていました。
 異様な素早さで二つの影は森の中に消えていきます。そして安全を確認すると木の陰から尖ったエラだけ出して叫び始めました。
「ニホン一家がピクニックなんて生意気ニダ! ウリ達が邪魔してやるニダ!」
 敢えて確認しなくてもこの声はカンコ君に間違いありません。
「手始めにお前達の食糧をいただく! 忠義!」
 キッチョム君に違いない号令が発せられると、草の中に伏せていた茶色い物体が猛然とニホン一家に襲いかかりました。
「きゃあっ!」
「な、何だ? 猿?」
 それは数匹の山猿でした。猿たちはニホン家の大人達を避けて、ニホンちゃんママ会心の『琿春弁当』だけを奪っていきました。
「こいつ!」
 ウヨ君は足元にあった松ぼっくりを拾って投げつけました。数個は当たったのですけど、元々が猿の奇襲だったので対応が遅れ、まんまとお弁当は奪われてしまいました。
「私の海苔巻きー!」
 空腹に耐えかねていたニホンちゃんは、少ししか口にしていない海苔巻きを奪われて号泣状態です。
「プハハハ〜 やいニホン! お前の海苔巻きはウリが食べてやるニダ!」
 森の中でカンコ君が笑っています。
「く、あいつら、許さ……」
「許せないわ! 差別よ!」
 ウヨ君が怒ろうとしたところを別の声が遮りました。いつもは「喧嘩反対! 喧嘩するくらいなら殴られるべきだわ」と言っているアサヒちゃんが、何故だかとても激昂しています。
 訝しがっているウヨ君を無視して、アサヒちゃんは携帯電話を取り出して登録してある番号を押します。
「もしもし、チューゴ君?」
『あーアサヒちゃんアルか? こんなに朝早くどうしたアル。まだ9時12分アルね』
「そんなことどうでも良いの! それよりチューゴ君の土地の猿! あれは何よ!?」
『猿アルか? その辺にはサクリンってボス猿が支配しているはずアルが』
「その猿が、よりにもよってあたしの食べかけだけは奪っていかないのよ! ニホンちゃんのは真っ先に取っていったのに! 女性差別よ! 酷いわ!」
 ウヨ君は少し脱力してしまいました。ニホンちゃんは空腹のあまりに呆然とし、聞いてはいませんでした。
 アサヒちゃんのデムパ抗議に呆気にとられていたチューゴ君ですが、気を持ち直して返答します。
『確かにその辺は朕の家の土地アルが、猿のことまでは責任持てないアル』
「そんなの無責任よ!」
『まったくサクリンのやつ、はぐれ猿の手懐けに失敗したアルね。ボスの勢力争いに懸命なのは分かるアルが、自分の子分くらいはしっかりと……』
「やっぱりチューゴ君の管理怠慢なのね!」
『し、知らないアル』
 アサヒちゃんの抗議に、チューゴ君はのらりくらりとはぐらかすだけです。そのやりとりを聞いていて業を煮やしたウヨ君が、アサヒちゃんから携帯を奪いました。
「あっ何すんのよ!?」
「俺が話す。もしもしチューゴか?」
『ウヨ君アルか。とにかく朕は猿のことまでは知らないアル。勝手にするヨロシ』
「そーかそーか。じゃ、チューゴ家の土地を自由に探索するからな」
『ま、待つアル! 勝手に敷地内を荒らすのは良くないアル』
「だったら猿どもをどうにかしてくれよ」
『そ、それは……し、仕方ないアルね。勝手にするヨロシ』
「了解。勝手に山狩りするからな。後から文句を言うなよ。それじゃあ」
『やっぱり待つアル! 山狩りは……』
 ピッ
「チューゴの許可を取ったよ。さて、弁当の奪還と匪猿並びに不逞カンコの掃討作戦だっ!」
「おーっ!」
 ウヨ君はやる気満々。アサヒちゃんも別の理由で燃えています。
「ほら、姉さんも!」
「おー……」
 ウヨ君に嗾けられましたが、空腹のニホンちゃんは体力半分です。どうしても気力が萎え気味だったりします。
 大人グループは奪われてしまったお弁当の代わりを買い出しに行きました。ここからは子供グループ3人で行動開始です。
「現地時間ヒトマル丁度行動開始! 俺は正面から進む。姉さんは?」
「私はちょっと……」
「元気無いね。じゃあ迂回してカンコ達が逃げ出さないように包囲網を作ってよ」
「うん。そのくらいなら出来ると思う」
 ニホンちゃん、また溜息をつきます。
「で、アサヒは?」
「あたしは喧嘩反対! 暴力反対よ!」
「じゃあ弁当を取り返してもお前は要らないんだな」
「不平等差別だわ!」
「……じゃあどうするんだよ?」
「あたしは予備隊として見張っているわ!」
 何事にも自分の都合がよいアサヒちゃんでした。ウヨ君もアサヒちゃんの性格は知っているので、それ以上は何も言いませんでした。自分から協力することだけでも珍しいのですから。
「アサヒが予備隊なら……便宜的に俺は歩兵隊、ニホン姉さんは騎兵隊ってことで」
 ウヨ君はさりげなく自分の趣味を入れていたりします。いつもは「軍靴の音が」と騒ぐアサヒちゃんも、今はそれどころではないようで作戦行為に積極的です。
「敵はあっちの山の方に逃げたわ! チューゴ君によると青山の里って地名ね」
「では青山の里に潜伏している敵を包囲殲滅する! 進軍!」
 子供グループ3人はそれぞれ別れて行動開始しました。

・10時13分

「む、あれは……」
 ウヨ君が前方の原っぱに何かが点在しているのを発見しました。それは食い散らかされたお弁当の残骸でした。
「うぬぅ、許るせん。母上の手料理を奪っただけでも万死に値するのに、ゴミの不法投棄で環境破壊とは!」
 『我々』だけが良ければケンチャナヨ、なカンコ家では他人の迷惑なんて気にしません。
弁当がまだ乾ききっていないところから敵はまだ近くにいることが伺えます。
「よし、予想進路確定! 距離近し! 突撃!」
 草が乱されている方に向かってウヨ君は猛ダッシュしました。しかし予想していた地点には何も居ません。
「くっ、おかしいな。絶対この辺だと思ったのに……むっ!?」
 背後に視線を感じて振り返りました。
 ガサッ
 葉音だけ残して気配は消失していきます。かなり高く細い木の上の枝だけが揺れ残っていました。
「猿? まさか間者に猿を使っているのか?」
 そうです。カンコ君達は手懐けたはぐれ猿たちを密偵にして情報収集していたのでした。
「あいつら、セコい真似を!」
 しかしシートンさんも言っているように、人間と動物とでは追跡方法を熟知している人間の方が有利です。ウヨ君は今度は猿の気配にも注意しながら、カンコ君達を追いつめに掛かりました。

・10時21分

「ふん、見付けたぞ」
 しばらく探索していたウヨ君は、先程捨てたばかりと思われるゴミを発見しました。しかも前方の草むらからはガサガサと音までしています。
「プハハハ〜 ニホンの奴、あわてふためいていたニダー!」
「これは強奪ではない! 主体思想で正義の徴収だ! ウェーハッハッハッ!」
 間違いありません。ウヨ君は背後まで近付き、ヤマダ印の木刀をゆっくり構えます。
 シュッ
「はっ!」
 突撃開始寸前、ウヨ君の耳には微かに空気を割く音が聞こえました。反射的に身を躱すと、元居たところを松ぼっくりが通過していきます。
「猿か!?」
 いつの間にか忍び寄っていた猿が、ウヨ君に向かって先制攻撃を仕掛けたのです。
「ニダ? お前はウヨ!」
「くっ、気付かれたか!」
 もうこうなったら隠密行動をしても無意味です。ウヨ君は一直線にカンコ君とキッチョム君に向かって走っていきます。
「お、応戦するニダ〜!」
「は、発射ー!」
 カンコ君とキッチョム君は手当たり次第松ぼっくりを投げてきます。ウヨ君もこれに応じて松ぼっくりの弾を投げ返しました。カンコ君達の乱射と違い、ウヨ君は落ち着いて狙いを定めて投げつけます。カンコ君の松ぼっくりは全く当たらないのに、ウヨ君の投げる弾は的確に命中しました。
「ニダ〜! ここは不利ニダ! 一時撤退するニダ!」
「俺様も縮地法で撤退だ〜」
 30秒ほど戦っただけでカンコ君達は逃げ出しました。
「待ちやがれっ!」
 ウヨ君は果敢に迫ります。後一歩でカンコ君の背中を掴めると思ったその時……
「これでも喰らえニダ!」
「ぶわっ!」
 清々しい山林の空気を徹底的に破壊する悪臭! 鮮やかな緑は、どす黒い赤に染まっていきます。
「キムチ爆弾ニダ!」
「て、てめえ! なんてことしやがる!?」
 ウヨ君は幸いにも寸前で躱しましたが、周囲の草木は強烈な刺激に萎れていきます。恐るべき環境破壊! 自分が逃げるためだけで、他人の迷惑省みずです。
 猪突猛進のウヨ君もさすがにこれには怯みます。その僅かな隙に、カンコ君とキッチョム君は姿を隠してしまいました。
「ちぃ、逃がしてしまったか」
 ウヨ君は勝ったとは言え4つほど松ぼっくりが当たってしまいました。先制攻撃されたことが原因のようです。
「だがこっちは16発も当ててやったぞ。ざまをみろ」
 しかもカンコ君達は慌てふためいてバラバラに逃げたので、敵戦力は分断されています。戦術的にはこれでだいぶ有利に立ちました。
「あとは姉さん達が上手く包囲してくれればいいけど……俺も急ごう」
 ウヨ君はさらなる追撃を再開しました。

・10時22分

「はぁ……疲れちゃった」
 ニホンちゃんはぺたんと腰を下ろしました。ウヨ君の進路のような草むらを歩かなくて済んだだけマシですけど、やはり山道の迂回は辛いものがあります。しかも朝食抜き。体力半分です。
「少し休もっと。ウヨもそろそろ来る頃だと思うし」
 疲れていてもさすがはニホンちゃん、律儀に予定通りに指定ポイントには到着しています。本当ならば付近探索を続行しなければならないのですが、体力無限のウヨ君と違って女の子なのですからそこまでは無理でした。
 寝不足もあってウトウトとし始めます。気が緩んでしまったその時……
「ニダ〜!!!!!」
 無防備のニホンちゃんに突如襲いかかる不逞な人影! こんなことを大喜びでするのは勿論カンコ君です。
「え? 何? 何?」
「今日こそスカートまくりを成功させるニダっ! パンツ見せやがるニダ!」
 油断していたニホンちゃんは、カンコ君の接近を許してしまいます。カンコ君の欲情にまみれた手がニホンちゃんの下半身に迫ります。しかし!
「ニ、ニダ?」
 掴もうとしていた布きれがありません。カンコ君は空を切る自分の手を不思議そうに眺めています。そしてはっと我に返ってニホンちゃんを問いつめました。
「おいニホン! どうしてスカートはいてないニダか!?」
「だって山歩きだし」
 そうです。ニホンちゃんはズボンに履き替えていたのでした。草の汁でかぶれたり虫に刺されたりしないようなKanouブランドの長いズボンです。後ろのボッケには『27』との数字とお馬さんのアップリケが入っています。
「ム、ム、ム、」
 カンコ君はなにやら唸り始めました。お腹でも痛いのでしょうか? ニホンちゃんが心配そうに、カンコ君の顔を覗き込みました。
「カンコ君、大丈夫?」
「ニ、ニホン……」
「なあに?」
「ズボンを脱ぎやがれニダー!!」
「いやぁ〜!!」
 子供にあるまじきセクハラです。ニホンちゃんは、鼻息荒く近付くカンコ君に向かって松ぼっくりを乱投しました。
「来ないで! 来ないで〜!」
「お、おとなしくするニダ!」
 カンコ君の奇襲にも関わらず、ニホンちゃんは意外と頑強に防御しています。攻防5分間、ニホンちゃんは3回ほどズボンを脱がされそうになりながらも、60発の松ぼっくりをカンコ君にぶち当てました。予想外の抵抗と反撃に、カンコ君はタジタジです。
「い、一旦守りに入るニダ」
 カンコ君はニホンちゃんのものすごい松ぼっくり反攻から身を守るため、木の陰に隠れて防御態勢をしました。
 ですがその均衡もすぐに破られます。
「天誅〜!!」
「ニ、ニダ〜!?」
 カンコ君の背後に、鋭い打ち込みが繰り出されました。閃くのはIino印の竹刀です。しかし悪運だけは強いカンコ君は野生のカンで寸前で躱します。
「姉さん大丈夫か!?」
「ウヨ! 助かったわ!」
 追撃していたウヨ君が間に合ったのです。これで大勢は決しました。有利な位置にいたカンコ君も、ここまでのようです。
「戦略的撤退ニダ〜!」
「待て、この野郎!」
「再び喰らえニダ!」
 カンコ君はまたしてもキムチをばらまいて山の中に逃げていきます。しかしさっき既にウヨ君の追撃を躱すためにキムチを随分と使ってしまったので、もう残りは少ししか有りませんでした。
「ムム……仕方ないニダ。これも使うニダ!」
「ああっ、弁当の残りを!?」
「プハハ〜! いい気味ニダ!」
 カンコ君はニホンちゃんママの作ってくれたお弁当の残りを放り出して行きました。それが地面に落ちる前にウヨ君がキャッチしている合間に、カンコ君は山猿と共にさらに山奥へと入っていきます。
「くっ、またしても逃がしてしまったか」
 ウヨ君は歯ぎしりして悔しがりました。少々の食糧は取り戻したとはいえ、本来の攻撃目標の殲滅は完遂できなかったからです。
「でもまぁ……」
 ウヨ君は、ちょっと泣きべそをかいているニホンちゃんの無事を見て、胸をなで下ろしました。

・10時25分

「差別だわ! 差別だわ! 差別だわー!!」
 山間に一人響く糾弾のこだま。……道に迷って心細くなったアサヒちゃんでした。予備隊として待機していれば良かったのに、暇だからと歩き回ったのが原因です。
「もう、どうしたものかしら。……ん?」
 腹癒せにウヨ君の中傷広告を考えていたアサヒちゃんは、向こうの木の間から細い煙が立ち上るのを発見しました。こっそり近付くと、何やら声が聞こえます。
「カンコ! 食糧を放り出してしまったらウリの食べる分はどうするつもりハセヨ! 本来ならば粛正対象だ!」
「め、面目ないニダ……」
 それは焚き火をして山芋や川魚を焼いているカンコ君とキッチョム君でした。二人ともウヨ君やニホンちゃんとの交戦、そして山道の逃亡でヘトヘトになっています。
「チョォブ……これからどうするニダか……?」
「心配ない! ウリ達の潜在的優秀さを以て一大血戦をすれば、必ずやニホンたちを撃滅できるに違いない! 主体思想を極めた俺様は、何事にも動じないし自分を見失って慌てることはない! ウェーハッハッハ!」
「そ、そうニダね! 勇猛果敢なウリたちが合流したからには負けるはずがないニダ! ここから一歩も引かずにニホンたちに一泡吹かせてやるニダ! プハハハ〜!!」
 何やら内輪で誉め合って盛り上がっています。彼ら的にはイケイケムードで互いに讃え合っているような気で居ますが、端から見るとビクビクと震えているのがまる分かりです。
 そんなこととはつゆ知らず、同じく道に迷っていたアサヒちゃんは、天の助け人の語とばかりに大声で駆け寄りました。
「発見したわ〜! 二人ともそのまま動かないで〜!」
 アサヒちゃんの突然の急襲に、精神的に怯えきっていたカンコ君とキッチョム君は完全にパニックに陥りました。
「アイゴーーー! は、反撃! 反撃だー!」
「痛い! 痛いニダ! キッチョム君、メチャクチャに松ぼっくりを投げると危ないニダー!」
 混乱した不逞二人は、手当たり次第松ぼっくりを周囲に投げつけています。
「な、何?」
 アサヒちゃんは驚いて木の陰に隠れました。眼前では、カンコ君達が互いに松ぼっくりをぶつけ合って自滅しています。
「に、逃げ……いや、戦略的撤退〜! ロシアノビッチ家なら安全だ!」
「待って欲しいニダ〜! ウリも連れて行ってくれニダ〜!」
 あたふたと後ろも見ずに遁走していきます。
 数分後、静寂は戻りました。恐る恐る木の陰から顔を出したアサヒちゃんが見たのは、食べかけの食料もそのままに敗走した跡だけでした。
「……なんだったのかしら?」
 アサヒちゃんはぽかんとして立ちつくしました。

 それからカンコ君達の姿が見つからなくなったので、ニホンちゃん達は当初の作戦は終了したと考えて元の場所に戻りました。

・正午

「3人とも、ご飯よー」
 買い出しに行っていたニホン家大人グループが戻ってきました。近くのキャンプ場からレンタルでバーベキューセットも借りてきたようです。
「お母さんのお弁当はダメになっちゃったけど、こういう食事も良いね」
 ニホンちゃんはすっかり元気を取り戻し、焼きたてのお肉を頬張っています。ウヨ君もアサヒちゃんも食事に夢中です。
 次の串を取ろうとしていたニホンちゃんは、ふと視線を感じました。
「あれ?」
 木の陰から猿が何匹もこちらをじっと見ています。ウヨ君もそれに気付きました。
「姉さん、下がって!」
「あたしも守りなさいよ!」
 ニホンちゃんの前に出たウヨ君の後ろに、アサヒちゃんも素早く隠れます。こんな時だけは調子がいいですね。
「ウヨ、ちょっと待って」
 攻撃態勢に入ろうとしていたウヨ君を、ニホンちゃんが手を掴んで止めます。猿たちをよく見ると、羨ましそうにしています。
「……おいで、おいでー」
 ニホンちゃんが手招きすると、猿が何匹か寄ってきました。どうやらカンコ君達の手下になっていたはぐれ猿のようです。
「姉さん、危ないよ」
「うーん、でも大丈夫そうだよ」
 ニホンちゃんはお肉と野菜を皿に取り分けて、ふぅふぅして冷まして猿に渡してあげました。猿たちはちょっと警戒していましたが、危険でないと分かると喜んで食べ始めました。
「ほらね。きっと私たちと仲直りしたいんだよ」
「む……そのようだね」
 山からは次々とはぐれ猿たちが姿を現しました。仲間の猿が保護されているのを確認して、安心したようです。ニホンちゃん達は出来る限り猿たちに食べ物を与えてあげました。

 こうしてニホン家・秋の間島ピクニックは終了したのでした。


 次の日……

「おはようニホンちゃん」
「おはようタイワンちゃん」
 教室にはいつものクラスメイトが元気良く登校しています。その中でも、昨日良いことがあったニホンちゃんはちょっとご機嫌です。次に間島にピクニックに行く時にはお猿さん達とも仲良く遊べそうなので、また楽しみが増えたからです。
「ニホンちゃん、嬉しそうだね。何かあったの?」
「うん。ええとね、昨日ピクニック行った時に……」
 ガラッ!
 粗暴に開けられる教室の扉、そして尊大に床を踏みならす足音。ニホンちゃんの情緒が一気に下降します。もう条件反射になってしまったようです。そしてその不安は、不幸にも大当たりです。
「ウェーハッハッハッ! やいニホン! 昨日はウリ達に大負けしていたな!」
「プハハ〜! ウリ達はニホンたちと青山の里で喧嘩して大勝利したニダ!」
 予想通り、いつものコンビです。休み明けからニホンちゃんは溜息が出ました。
「ねぇカンコ君キッチョム君、私は喧嘩したなんて考えていないよ。ちょっと鬼ごっこしたくらいで……」
「プ〜 歪曲は良くないニダ! お前達は、ウリ達に大人4人とウヨとアサヒが総掛かりで殴りかかってきたニダ!」
「……は?」
 ニホンちゃん呆然。いつからそんなことになったのでしょうか?
「えと、カンコ君、お父さんやお母さん達は買い出しに行っていて、私たちと一緒に鬼ごっこなんてコトしていないよ」
「ウェーハッハッハッ! 捏造は良くないぞ! 我々はお前達一家全員と勇敢に戦い、1200個も松ぼっくりを当てて撃退したぞ!」
「そうニダ! 神出鬼没の素早さと火計を使った諸葛亮に匹敵する策略そして完璧な伏兵戦法で、ニホン一家全員をやっつけたニダ! プハハ〜」
 いつものことながらニホンちゃんは頭痛がしてきました。先程までの浮かれ気分はどこかへ飛んでいってしまっています。反論するのも馬鹿馬鹿しいので、そのまま彼らの講演を聴いていました。
「プ〜 そしてこれが証拠写真ニダ!」
 カンコ君が大威張りで写真を突き付けてきました。
「……これって……」
「ニホン達がすごすごと逃げ帰るところニダ!」
 単に家に戻るところを写しただけです。しかも背景は夕焼け。カンコ君達と遭遇したのは午前中ですから、全く時間が違うのは明白です。
「次はこの証拠写真ニダ! ニホンがウリ達の大勝利に逆恨みして、間島を荒らしまくった犯行の瞬間ニダ!」
「……」
 ニホンちゃんは絶句して、何かを言う気力もなくしてしまいました。それはカンコ君達がキムチを撒いて汚していった場所を、ウヨ君・アサヒちゃん・ニホンちゃんで掃除している場面だったのです。それを逆に『汚している場面』と歪曲を言い張っているのでした。
「ウェーハッハッハッ! 我々の大勝利とニホン一家の悪行を知らしめるため、この写真を学級掲示板に貼っておく! 主体思想がある限り、これは永久に保存だ!」
「賛成ニダ! 大賛成ニダ!」
 カンコ君とキッチョム君は、周囲の白い視線にも構わず踊り出しています。キッチョム君に至っては、携帯カラオケを持ち込んで歌うほどです。
 脱力しきって机に伏せているニホンちゃんに、タイワンちゃんが心配そうに寄ってきました。
「ニホンちゃん、大丈夫?」
「うん……なんとか……」
「でもあれって……嘘よね……」
「想像に任せるよ。ごめんね、今は何もする気が起きないの」
「察するよ……」
 タイワンちゃんはニホンちゃんにつき合って溜息をついてあげました。
 さて、自分で捏造していることがわかっていても他人から何も抗議されないと勝手に史実にしてしまうのがカンコ家の習慣です。げんなりしているニホンちゃんが無言で居ると、既に青山の里での攻防は自分たちの主張通りになったと思い込んで大喜びです。
「ウェーハッハッハッ! ニホン家をやっつけた勇敢な我が正義の軍団は、100万に増えて間島付近で活躍している!」
「ほう、100万アルか。随分と派手アルな」
「そうニダ! 大軍団になったウリの光復軍は、八面六臂の活躍で、ある時はロシアノビッチの領地を駆け、ある時はチューゴん家の土地に潜伏し、その土地を支配していったニダ!」
「ウィ〜、おおそうか。お前らはマンシューにも土足で踏み込んでいたんだな」
 ニホンちゃんとタイワンちゃんは「あ……」と驚きにも憐憫にも似た呟きを上げました。ウリナラマンセーで現実を見ていなかったカンコ君達の背後には、いつの間にか地球組の大ボスが揃い踏みしていたのです。浮かれまくっていたカンコ君とキッチョム君が正気を取り戻したのは、襟首を乱暴に捕まれた後でした。
「チュ、チューゴ君……ロシアノビッチ君……」
「おいカンコ、朕の土地で何をしていたのか、ゆっくりと聞かせて貰うアル。お前達のせいで、朕の家はまたニホン家に頭が上がらなくなったアルよ」
「ウィ〜、あ、俺様達は1時限目はサボりね。さてキッチョム、体育館裏に行こうか」
 カンコ君とキッチョム君はずるずると引きずられて教室から消えていきました。二人の顔面蒼白で死体のような無気力さを、地球組のみんなは『ドナドナ』を思い出しながら見送っていました。
 廊下の向こうから「アイゴーーーーーーー!!」の悲鳴が響いて消えて、地球組は静けさを取り戻しました。
 その後、何日かはカンコ君とキッチョム君の姿が見えず、ニホンちゃんは比較的平穏な日々を過ごしました。

 終わり

こんにちは
 『コリアンジェノサイダーnayuki』での青山里戦闘の記述(第五話)は、長い割にはずっと記録の列挙だけで面白味が無いので、ニホンちゃん風味で書いてみました。
 Naverでの青山里戦闘討論はnumber20様のHP戦歴が掲示されているので参考になさってください。

 では。

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